ブラリブラリと散歩中。
 
何やら見慣れない人物を発見した。
 
 
 
「あ?・・・・・ありゃあ・・・・・」
「うぅぅ〜っ・・・ここはどこぉ・・・?」
 
道端で、1人の少女が泣きべそを掻いている。
 
明らかに人間にはない狐の様な耳。
それに加えて、同じく狐の様なフサフサの尻尾。
そして、頬に控えめに生えた獣の髭・・・。
 
何処かで見た事のある顔だ・・・と、幽助が少ない脳味噌をフル回転させて考える。
そして・・・・
 
「ああ!!オメーかぁ!!」
「え!?」
 
思い出したらしい幽助。
その大声に、自分の世界に入り掛けていた少女がビクッと振り向く。
 
「オメーあれだろ!暗黒武術会で審判とか実況やってた・・・・えーっと・・・・」
「ぁああ!浦飯チームの幽助さん!!」
「そーだ!小兎だ小兎!!」
「はい!」
 
今の会話からもわかるように、道端で困り果てていたのは暗黒武術会審判兼実況の小兎だった。
久しぶりの顔に、幽助が懐かしそうに話し掛けようとするが、それより先に疑問にぶち当たる。
 
「っつーかオメェ・・・何でこんなトコにいんだ?」
 
当然の疑問である。
 
「えぇー・・・っと・・・・」
「何だ?オメェ人間界に住んでたのか?」
「ち、違います違います!実は迷い込んじゃって・・・」
「はぁ?迷い込んだだぁ?」
「うぅ・・・お恥ずかしいのですが・・・」
 
どうやら、偶然空間の歪みに入り込み、人間界へ迷い出てしまったらしい。
その事を聞いた幽助は、驚きもせずにふーんとだけ返事を返した。
 
「・・・で、帰り道探してんのか」
「はい・・・あ、でも折角人間界に来れたので、ちょっと見学でもして行こうかなーと」
「暢気だなぁオイ」
「あ、あはは・・・でも、暗黒武術会で来た時から来てみたいと思ってて・・・」
「・・・・まぁイーケドよぉ・・・・そのカッコじゃ目立つんじゃねぇ?」
「・・・・・・そ、そうですね」
 
流石に、耳丸出し尻尾丸出し、しかも服装は中々人間が着ないような服だし、顔には髭がある。
これでは街中なぞ歩けないだろう。
 
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・そーだ」
「え?」
「アテならあんぜ、服」
「ほ、本当ですか!?」
 
しょげる小兎を流石に可哀想だと思ったのか、幽助が提案する。
その言葉に、パッと小兎が顔を上げた。
 
「おう、ちょっと付いて来い・・・って、それじゃ目立つんだったな」
 
そう言うと、小兎の手を引こうとしていた手を引っ込め、羽織っていたパーカーを徐に脱ぎ始める。
そして、それを小兎に渡した。
 
「それ着て、フードで耳隠しとけよ、尻尾は・・・立ててりゃパーカーで隠れんだろ?」
「あ、ありがとう御座います!」
「おし、それじゃあ行こーぜ」
「はい!」
 
笑顔の小兎に、今度こそ手を引き、行き慣れたある場所へと足を向けた。
 
 
 
 
 
「おっし、オメェはここで待ってろよ」
「あ、はい」
 
着いた場所は『雪村食堂』。
どうやら螢子に服を借りるつもりらしい。
 
「・・・っと、その前に!」
「は、はい」
 
店内に足を踏み入れようとしていた幽助が、急に真剣な表情で振り向く。
それに、小兎は何事か、とビクリと肩を揺らした。
 
「今からオメーに服を借りるが、サイズが合わなかったら問題だ」
「は、はい・・・」
「だから、スリーサイズ教えろ」
「え、えぇ!?////」
「服借りる為だって!」
「は、はぁ・・・えっと・・・」
 
幽助の気迫に押され、顔を赤くしながらもサイズを幽助に耳打ちする小兎だった。
 
「ほほ〜ぅ・・・中々」
「は、早く借りて来て下さいよ〜〜っ////」
 
うんうんと頷く幽助に、小兎が茹蛸状態になりながら急かす。
その様子に笑ってから、幽助が食堂の中に入って行った。
 
 
 
「よぅ螢子!」
「きゃあ!?ちょっと幽助!来るなら来るって言ってよね!!ビックリするじゃない!!」
「悪ィ悪ィ、急用でよぉ・・・」
「急用?何よ・・・」
「オメェの服、貸してくんねーか?」
「はぁ?」
 
突然の幽助の訪問に驚き、そして更にその用件に驚く。
それもそうだろう。
 
「何よそれ」
「いやよぉ・・・ちっとダチが服必要になって、オメェが一番近いサイズっぽいんだよ」
「ますますわかんないわよ・・・大体アンタに女の子の友達いた?」
「お?お、おお・・・ダチっつぅか知り合いなんだけどよ」
「ふぅ〜〜ん・・・・・・・ま、良いわ、貸してあげる・・・どんなのが良いの?」
「別にどれでも良いよ」
 
思いっ切り怪しんでいる螢子だが、取り敢えず服は貸してくれるらしい。
そして、クローゼットを開けると、何着か見た後に選び抜いた洋服を見せた。
 
「これでどう?」
「おー、良いんじゃねぇ?」
「良いんじゃねぇ?って・・・アンタ、友達の人に選ぶんでしょ」
「お、おう」
 
螢子が選んだのは、白のボレロにブラウス、それとチョコ色のヒラヒラしたスカート。
螢子が好みそうな服装だ。
 
「・・・あ、それとよぉ、悪ィけど帽子か何か貸してくれねぇ?」
「帽子?」
「おう」
 
幽助の言葉に、螢子が近くにあった帽子を手に取る。
スカートと同じ色のキャプリーヌだ。
 
「これで良い?袋は?」
「お、おお、ワリ。サンキュな!礼は今度すんぜ」
「期待しないで待ってるわ」
「助かったぜ、じゃあな!」
 
そう言って足早に蛍子の部屋を後にする幽助。
その後姿を訝しげに見つめていた螢子は、暫くしてから自分も部屋を出る準備をしだした。
 
 
 
 
「よォ、悪ィな待たせて」
「いいえ!わざわざありがとう御座います!」
「あ、靴忘れたな・・・ま、それでもおかしくねぇか」
 
幸い靴は人間界にもありそうな物だったので、一先ず安心する。
 
「じゃあ、どっかで着替えてくれよ」
「え、で、でも・・・」
「あー・・・・ホラ、こっち来い」
 
急に言われ、困る小兎の手を再び引く。
そして近くの公園に入ると、公衆トイレの前まで連れて来た。
 
「ホラ、見覚えあんだろ?暗黒武術会ん時にもあった筈だぜ」
「あ、はい!知ってます!」
「そこで着替えて来いよ、待っててやっから」
「はい!ありがとう御座います!」
 
幽助から服の入った袋を受け取り、嬉々として公衆トイレに入って行く小兎。
それを、幽助が笑いながら見送った。
 
 
 
 
「幽助さん、どうですか?」
「おー、似合ってる似合ってる、ちゃんと人間っぽいって」
「本当ですか!?」
「おう」
 
幽助の言葉に、小兎が無邪気に喜ぶ。
 
「おーっし、じゃあ、行くか?」
「え?行くって・・・?」
「何だよ、人間界見学すんじゃねぇのか?」
「え、そ、そうですけど・・・幽助さんまで・・・?」
「その服後で返さなきゃなんねーし、それに、オメェ1人じゃ不安だろ?」
「一緒にいてくれるんですか!?」
「まーな、ホラ、行こうぜ」
「ありがとう御座います!」
 
何気ない幽助の親切心。
それに、小兎は弾けるような笑顔で答えた。
 
そんな楽しい2人の一時も、暫くしてから思わぬ方向に向かう事となる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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